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2022.12.13

【インタビュー】地域のものづくり会社が集結!企業を超えた交流を生む「みせるばやお」の取り組み 藤田金属・藤田 盛一郎さん

「みせるばやお」は、製造業が盛んなまち大阪府八尾市で、ものづくりの魅力、八尾の魅力を伝えているイノベーション推進拠点です。中小企業同士の交流会や、トークイベント、子ども向けワークショップなどを開催しています。

今回はそのキーマンである藤田金属の藤田 盛一郎(ふじた・せいいちろう)さんに、取り組みの内容やその効果についてお伺いしました。

 

目次

藤田 盛一郎(ふじた せいいちろう)さん・プロフィール

メディア露出へのきっかけは、会社のリブランディング

隣の工場が何をつくっているのか知らなかった

経営者同士で悩みを共有

 

 

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藤田 盛一郎(ふじた せいいちろう)さん・プロフィール

1981年生まれ、大阪府出身。大学卒業後、2003年に家業である藤田金属株式会社に入社し営業・開発を主に担当。2020年、四代目代表取締役社長に就任。2021年創業70周年を迎え、工場を見下ろせる自社SHOP「フライパンヴィレッジ」をOPEN。工場の見える化によりスタッフのモチベンションUPと品質UPを実現。商品では2019年は発売した「フライパンジュウ」がデザインと機能を備えたフライパンとして2021年に世界三大デザイン賞であるレッド・ドット・デザイン賞(Red Dot Award 2021)とiFデザイン賞(iFdesign award 2021)をW受賞。現在では金属加工の培った技術を活かしアウトドア商品からインテリア雑貨・園芸用品や文具・家具ツールといった幅広い分野に拡大し、海外にも力を入れています。

 

藤田金属ホームページ:http://www.fujita-kinzoku.jp/

みせるばやおホームページ:https://miseruba-yao.jp/

 

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メディア露出へのきっかけは、会社のリブランディング

 

 

――まずは、藤田さんが代表を務めている藤田金属株式会社について教えてください。

 

藤田さん:大阪府八尾市で、金属加工をやっている会社です。1951年に創業して、鉄のフライパンや鍋、ティーポットなどのキッチン用品、アウトドア用品、園芸用品、インテリア雑貨などをつくっています。

 

10年ほど前は、量販店に卸すアルミのタンブラーを多くつくっていましたが、最近はオリジナル製品の直販に力を入れていて、鉄のフライパンが主力商品。僕と弟の3人兄弟を中心に、金型製造から製品加工、そして販売まで、すべての工程を一貫して行っています。普段からコミュニケーションを取り合える、家族経営の小さな工場だからこそ、日常を楽しくする革新的なものづくりができると考えています。

 

――ホームページを拝見していると、オリジナル製品がどれも素敵ですね!

 

藤田さん:調理した後、お皿としてそのまま使える「フライパン ジュウ」は、東京の小さなデザイン事務所TENTさんと一緒に、試行錯誤を繰り返しながら、ようやく完成した商品です。

 

無垢の木材を削り出してつくったハンドルは取り外し可能。調理後はお皿として食卓に並べることができます。厚さ1.6mmという厚手の黒皮鋼板を使っているので、弱火でじっくり焼くだけで、お肉はジューシーに、野菜はシャキシャキに、パンなら外はサクッと中はモチモチ。驚くほど美味しく焼けるんですよ。

 

 

藤田:うちはいわゆる町工場で、以前は何をつくっている会社なのか、一般的には知られていませんでした。でも5年ほど前、「鉄製フライパン=藤田金属になりたい」という思いで、会社のホームページをTENTさんにリブランディングを依頼。そこからメディアにも取り上げられるようになりました。

 

――メディアに取り上げられたことで、何か影響はありましたか?

 

藤田さん:雑誌やテレビに取り上げてもらったのですが、それを見た学生さんから、「新卒採用してないですか」って問い合わせが来たのが一番驚きましたね。こちらから募集をしたわけではなく、問い合わせフォームから直接連絡をもらって。それまで新卒採用はやったことがなかったですし、その子も大手の内定を蹴ってきたというので、一度は止めたんですけど(笑)。工場見学と、東京ビッグサイトでの展示会のインターンを経て、入社してもらうことになりました。

 

 

隣の工場が何をつくっているのか知らなかった

 

――藤田金属のある大阪府八尾市は、製造業が盛んで、横のつながりも強いと伺いました。

 

藤田さん:「みせるばやお」という、ものづくりをしている人たちの集まりがあって、その存在が大きいと思いますね。4年前に、八尾のものづくりの魅力を伝えようということで始まったプロジェクトで、僕も立ち上げメンバーの一人です。地域の企業や工場の若手後継ぎが、40社ほど集まっています。

 

具体的には、八尾駅前にある「みせるばやお」の拠点やそれぞれの企業のスペースで、中小企業の人同士が交流するイベントをやったり、子どもたちにものづくりの楽しさを伝えるワークショップを開催したり。企業向けの勉強会などもしています。

 

八尾には町工場がたくさんあるのですが、実際には、隣の工場がどんなものをつくっているか、どんなことをやっているのか知らないんですよね。もっと企業間で情報交換ができれば、協業ができるかもしれないし、助け合えるかもしれない。そういった交流の活性化を目的にみせるばやおは活動しています。大阪の製造業の中では一番というくらい、八尾は企業間の仲が良い地域だと思います。

 

――藤田さんたちは、みせるばやおでどんなイベントやワークショップをやっているんですか?

 

藤田さん:年1回、地域の企業が合同でやる大きなイベントでは、小学生向けに、鉄製のフライパンを知ってもらうワークショップを開催しました。10名ほどの子どもたちと、その親御さんに、実際に工場に来てもらって、まずはアルミ製のフライパンと、鉄製のフライパンを持ち比べてもらいます。その後、鉄製のフライパンで料理をつくってみんなで食べるという内容です。

 

お子さんにとってはフライパンに親しむいい機会になりますし、親御さんにとってはフライパンについてもっと深く知る機会になる。僕らにとっても、お客さまがどんな反応をするのか直接見られるので勉強になる。予約もすぐ埋まって、とても良いイベントになりました。ただ、1年目はみんなでパエリアをつくったのですが、調理がちょっと大変で。2年目はポップコーンに変更しました(笑)。

 

――アルミ製のフライパンと、鉄製のフライパンを持ち比べるというのは面白そうですね。ワークショップの内容はどうやって決めていったのでしょうか?

 

藤田さん:それまでワークショップを開催したことがなかったので、みせるばやおで呼んでくれた、ワークショップのプロにアドバイスをもらいながら検討していきました。みせるばやおのメンバーは、うち以外にも「ワークショップなんてやったことがない」「うちはやれることがない」という企業が多かったのですが、外からの目線で、プロに「ここが特徴的だと思いますよ」「これをやったら楽しそう」と意見をもらえるのは有り難かったですね。

 

メンバー同士でも、「こんなことをやろうと思ってるんだけど、どうかな?」「10トントラックや、フォークリフトがあるなら、運転席に子どもを乗せるだけでも喜びそう!」などと、みんなで意見を出し合って決めていきました。

 

 

経営者同士で悩みを共有

 

 

――経営者同士で同じ悩みを共有できるのは、みせるばやおの良さですね。

 

藤田さん:そうですね。新卒採用をしようか迷っていたときも、他の会社の社長に「新卒採用やったことある?」とか「初任給ってどれくらいがいいんだろう」と相談しました。人材育成って、なかなか外に相談しづらいと思うのですが、みせるばやおを通して、同じような立場の人と話せるのは助かっています。

 

みせるばやおに参加したことでメディアへの露出が増え、採用が増えたという会社も多いみたいですね。うちも、今までは募集しても全然人が集まらなかったり、定年後の人ばかりになってしまうことがあったのですが、近年は募集すると20〜30代の若い人が応募してくれるようになって。会社自体が活性化しているように感じています。

 

 

――みせるばやおの取り組みを通して、実際の業務に良い影響を与えた例があれば聞いてみたいです。

 

藤田さん:アイデアソンのイベントがきっかけで、地域のアウトドア会社と協業することになりました。アウトドアメーカーと、キャンパー、そして僕らのような製造業が集まってチームになり、「こんな商品があったらいいな」というのを話し合うイベントで。キャンパーさんに実際のキャンプの様子やお悩みを聞きながら、「うちの工場だったら、こんなことができます」「あんなことだったらできそう」と提案していきました。

 

その結果、アイデアが出たアウトドアで持ち運びやすい「浅型で取手が短い、小さなフライパン」を製品化してみることに。小ロットでつくって、みせるばやおのショップスペースに置いてみたら、反響があって嬉しかったですね。

 

――実際に商品化までしているとは、すごいスピード感ですね!

 

藤田さん:みせるばやおは、参加者の熱量が高いので、アイデアが実現しやすい環境だと思います。はじめは八尾市が土台をつくった取り組みですが、運営は民間。参加している各企業で、代わる代わる担っているんですよね。もちろん初期は大変な部分もありましたが、みなさんプロの経営者なので、うまく運営しています。

 

僕は、自分の会社の社長になったばかりなので、まだあまりみせるばやおの運営面には貢献できていませんが、みせるばやおのおかげでメディア露出が増えたり、新製品が誕生したり、求人に繋がったり。たくさんの恩を受けているので、落ち着いたら恩を返さないといけないな、と思っています。

 

 

(写真提供=藤田金属株式会社、みせるばやお)