2022.4.2
世界を楽しむ「視点」、取り揃えてます –––松澤茂信が語る、合同会社別視点の歩みとこれからの展望
※2021年3月19日PR TIMES STORYに掲載された同記事を、転載しております。
<目次>
■きっかけは、お花茶屋の「カオスな喫茶店」
■別視点流ツアーは「道端のガスト」で大盛り上がり
■コロナ禍だからこそ、地元に目を向ける機会を
■続くコロナ禍、「散歩」をアップデートする
2020年、コロナ禍において、大きな打撃を受けた産業の1つが観光です。東京オリンピックを目標に、観光業に注力していた状況から一転コロナ禍では、観光に行きたくても、なかなか行くことのできない雰囲気が醸成されつつあります。
しかし、そんな状況下だからこそ、これまで目を向けてこなかった〈地元の街歩き〉に目を向けるべきだ–––。そう語るのは、合同会社別視点の代表取締役社長、松澤茂信です。
同社は2016年より、一風変わった珍スポットをめぐる「別視点ツアー」や、日本中のあらゆるマニアを集めたイベント「マニアフェスタ」を開催。社名通り、既存の風景や概念に「別視点」を与える企画を展開してきました。
コロナ禍においては、既存のツアー事業が難しくなった一方で、「散歩」に目を向けたイベント「まちの視点の百貨店」を開催。地元を回遊しながら、今まで目を向けたことのなかった「視点」でまちを探検するイベントは、コロナ禍における新たな「散歩」の楽しさを提示しました。
地元に、日本に、まだ目を向けられてこなかった「別視点」を創出する–––。そんな想いのもと、様々なイベントや企画を展開している別視点は、松澤が1人ではじめたブログから始まりました。今回は代表取締役の松澤に、これまでの別視点の歩み、そして、これからの展望を聞いていきます。
きっかけは、お花茶屋の「カオスな喫茶店」
主要な観光スポットにはあえて行かず、ご当地の珍スポットのみを巡り、一風違った地域のおもしろさを発見する「別視点ツアー」。道に落ちている片手袋や、便所サンダル、テトラポッドなど、変わった収集癖やニッチな趣味を持ったマニアだけを集めたイベント「マニアフェスタ」。
合同会社別視点(以下、別視点)では、「世の中に『別視点』を増やす」のもと、ツアーやイベントを通じて様々な「視点」を届けてきました。イベントは回を重ねるごとに成長し、「マニアフェスタ」はこれまで、累計8000人を動員しています。
そんな別視点のルーツは、代表の松澤が大学卒業後に始めたブログ「東京別視点ガイド」にあります。大学卒業後、松澤が「自分がお店を始めるときのために、変わったサービスをしているお店を研究したい」との思いから、飲食店を巡り、レポート的にブログを始めたことがきっかけでした。
「最初に取材に赴いたお花茶屋にある喫茶店『亜呂摩』の取材で、いきなり度肝を抜かれたのが、ブログを始めようとおもった大きなきっかけですね。目当てはコーヒーを使ったスープの中に、コーヒーを練り込んだ麺を入れた『コーヒーラーメン』だったのですが、いざ行ってみると、食べ物以上に店長さんの人柄やお店の雰囲気がユニークで……」(松澤)
「コーヒーラーメン、なんとも形容しがたい味なんですけど、店長さんが本当に優しくていい人だから、本気で作ってるのかギャグなのかわからない。外観は地元に馴染んだ喫茶店なのに、メニューが奇妙なものばかり。それに、常連のおじちゃんたちも、食べ物よりもカラオケを楽しんでる…。メニューは謎だけど、不思議とみんなが楽しんでいる奇妙な空気感が完成していて。気付いたら、僕もそんな雰囲気に魅了されていました」(松澤)
ガイドブックに載っていないディープな「珍スポット」を、自分なりの視点で丁寧にレポートすれば、面白いのではないか。学生時代は「そこまで旅行好きではなかった」という松澤ですが、珍スポットに行けば行くほど、ブログで発信することにのめり込んでいきます。
「お店も、珍スポットも、『人間の意思』や『人間味』を感じると、思わず取材したくなりいますね。経済合理性から考えればやめたほうがいいのに、店長さんが絶対やりたくてやっちゃうみたいな、非合理的なサービスをみると、つい愛おしくなっちゃうんです」(松澤)
別視点流ツアーは「道端のガスト」で大盛り上がり
松澤が開設した「東京別視点ガイド」は、ガイドブックでは出会えない珍スポットに出会える情報性や、ツッコミを入れる小気味良い記事が受け、ファンを生み出していきました。そして、小規模ながらもオフ会やツアーを開催するようになっていきます。
そんななか、松澤は2016年にツアーの参加者でもあった齋藤洋平(現副社長)、趣味の大喜利仲間だった橘内勇人(同じく元副社長)を誘い、「有限責任事業者組合 別視点」を設立。本格的な事業として、執筆以外にも、ツアーにも注力していくこととになります。
「地方を取材するとき、地元の方々は決まって『このまちには何もないんですよね』と謙遜されるんです。でも、珍スポットをめぐっている僕たちからすると、何もない街って1つもなくて。飲食店や居酒屋から、道端の植物まで、つぶさにあたっていくと、その地域ならではのおもしろさは必ずあるんです。いろんな地域の、珍スポットを、イベントやツアーで紹介したい思いがありました」(松澤)
記事で紹介した珍スポットをバスで巡る「別視点ツアー」は、回を重ねるごとに参加者が増加。2019年からは日本を飛び出し、タイや台湾でもツアーを開催しました。中でも台湾のツアーは、増便するほどの人気を博しています。
また、ツアーには「マニアの人」が地域をガイドするフォーマットも人気があるそう。これまでには、道に落ちている片手袋の写真を撮り続けているマニア・石井公二さんによる街歩きツアーや、空想地図を作るマニア・地理人さんと巡る地理情報が満載のツアーなどを開催してきました。
「普通のツアーでは絶対に盛り上がらない、なんとことのない道や建物から知的興奮を得るのが、別視点のツアーの醍醐味ですね。地理人さんとのツアーでは、ファミレスの『ガスト』に着目して、郊外に移動するごとに広くなる駐車場に興奮したりしています(笑)」
「なんてことないスポットも、視点によって、絶対におもしろくなる。そんな知的興奮を得られるイベントを、これからも日本各地でやっていきたいと思っています」(松澤)
さらに、ツアーを通じて知り合った「マニア」との繋がりを活かし、2016年からマニアが思い思いのアイテムを出品する「マニアフェスタ」を開催。今となっては、8000人以上を動員する人気イベントとなっています。
コロナ禍だからこそ、地元に目を向ける機会を
別視点ツアーにマニアフェスタと、ニッチながらも熱量の高いファンを増やし、順調に成長していた別視点。しかし、2020年はコロナ禍によってツアーは軒並みキャンセル、開催を予定していたマニアフェスタも延期となってしまいました。
「東京オリンピックに向け、インバウンドに注力していく気炎を上げている真っ最中に、腰がおられてしまったような状況です。価値観が逆転して、観光が『悪』と見られているような風潮すらあります」(松澤)
そんな状況下で、なにかできることはないか–––。考えた結果、2020年12月に高円寺で開催されたのが、「まちの視点の百貨店」です。不動産会社より「駅前の遊休施設を活用したい」という相談から始まったこの企画は、街歩きをしながら、提示された「視点」を集めてくるもの。
「コロナ禍だからこそ、『地元の散歩をアップデートする』ことで、身近な風景からこれまでにない楽しさを創出できるのではないかと考えました」(松澤)
コロナ禍ということもあり、参加者の多くは、地元に住む家族連れ。慣れ親しんだ地元の風景を、いかに新鮮な視点で捉えてもらうことができるのか、マニアフェスタをきっかけにつながったマニアと共に、「散歩をコーディネート」していきました。
イベントの反応はどうだったのか。松澤は、「特にお子さんの、地元のまちの見方が変化しているとの声をいただいた」と、手応えを語ってくれました。
「イベントが終わったあとも、お子さんが私たちの提示した『視点』を見つけて喜んでいるとの声をいただいて。いったん『視点』をインストールすると、普段のまちの風景も、すごく楽しいものになるんです。コロナ禍だからこそ、何もない帰り道でも、つまらない通勤時の電車の車窓も、なんでも楽しもうと思ったら楽しめるんだよ、というメッセージを伝えていけたらなと」(松澤)
続くコロナ禍、「散歩」をアップデートする
コロナの余波は2〜3年続くとも言われています。これからの「ウィズコロナ」の時代、別視点はどのように歩みを進めていくのでしょうか。そんな疑問をぶつけると、松澤は「散歩をアップデートしたい」とのミッションを語ってくれました。
「『まちの視点の百貨店』を通じて、身近は半径1kmでも、見方次第で楽しむことができることを知りました。これは、コロナ禍だったからこそ、取り組むことができたのかなと」
「『まちの視点』も、珍スポットと同じように、人間の意思の表出だと思うんです。たとえば、街角にちょっとおかしなお手製の棚があったとしたら、それはちょうどいい高さに棚を作りたいと感じた、生活への工夫や、植物への愛があって…。人間の意思が『状態』を生み出して、『状態』が集積して『まち』を形成している。まちを歩きながら、そんな小さな奇跡を楽しんでもらえるような仕掛けを作っていきたいですね」(松澤)
また、マニアフェスタもコロナ禍において、新たな展開を見せています。
2021年3月に開催される「マニアフェスタ Vol.5」は、フランスやロシアなど、海外からのオンライン出店も絡め、初めての大阪での開催が決定。さらに、アメリカのクラウドファンディングプラットフォーム「Kickstarter」上でプロジェクトを開始し、日本のマニアを世界へ発信する取り組みをはじめています。
「ドイツには、路上に落ちている『Durstlöscher』というジュースのゴミの写真を集めるマニアがいたり、イギリスにも、道に落ちている手袋の写真を集めるマニアがいたり…。世界中にマニアが存在するんです。今回のマニアフェスタでは、海外のマニアと日本のマニアをつなげて、新たな化学反応を起こすきっかけになればいいですね」(松澤)
コロナ禍においても、絶えず新たな「視点」を提示し続ける別視点。最後に、「アフターコロナ」の展望も語っていただきました。
「究極的にやりたいのは、日本中に『聖地』を生み出すこと。地元のひとが『うちには何もない』と言ってしまうような地域に、国内外のマニアを集めた『マニアアベンジャーズ』が赴いて、なんてことないことで盛り上がるような(笑)。そして、日本の地域1つ1つに私たちなりの『聖地』を作っていきたいですね」(松澤)