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2021.11.18

【インタビュー】ものづくりを支える職人技術を地域内外に伝えたい 「スミファ」実行委員長・浜野慶一さん

ガラスに革小物、金属加工、印刷……。墨田区に根ざす多彩な業種の町工場を巡り、職人さんの技術に触れたり実際にお話したりして、ものが作られていく現場を肌で感じられるイベント「スミファ」。2012年に始動し、今年で第10回目となります。
スミファ実行委員長でありながら、生まれ育った墨田で金属加工の会社「株式会社浜野製作所」の代表取締役 CEOを務める浜野慶一社長に、スミファの開催の背景に至った思いや、イベントを通した地域の変化について、お話を伺いました。

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浜野 慶一(はまの けいいち)さん・プロフィール

株式会社浜野製作所 代表取締役 CEO。スミファ実行委員長。
1962年東京都墨田区生まれ。大学卒業後、都内の精密板金加工メーカーに就職。1993年株式会社浜野製作所代表取締役に就任、現在に至る。
2014年にものづくりイノベーションを支える開発拠点「Garage Sumida」を立ち上げ、ベンチャー企業や研究機関などの開発支援を推進している。そのユニークな経営スタイルは「新たな先端都市型のものづくり」として、国内外から大きな注目を集めている。

▷株式会社浜野製作所 https://hamano-products.co.jp/
▷スミファ https://sumifa.jp/

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多種多様な業種の町工場が集積する
ものづくりの街・墨田

――「スミファ」には多岐にわたる業種の企業が参加されていますね。そもそも墨田区には、なぜこれだけの町工場が集積しているのでしょうか?

浜野さん:東京都内で町工場が一番集積しているのは大田区、二番目が墨田区です。その中で業種別の産業構成比を見てみると、大田区は7割以上が金属加工ですが、墨田区は印刷や製本、金属加工、プラスチック、ニットや繊維、皮革など、様々な業界がバランスよく集積しているのが特長です。

なぜ大田区や墨田区に工場が集積しているのかと言うと、大きな理由が戦争。戦時中、大田区には武器を作る軍需工場がたくさんあり、戦後大きな工場が国から払い下げになりました。そこから仕事を受ける形で、金属加工の会社が集まっていきました。

一方で墨田区は、兵隊さんが戦地へ行くときの洋服や帽子など、身の回りの製品を作る工場が集積していきました。実は墨田区は、江戸時代からものづくりが盛んな地域。両国橋を渡った皇居のあたりには、かつて武家屋敷がたくさんありましたが、時代が変わりお侍さんの仕事がなくなり、空いた時間で内職仕事をするようになりました。その流れで、身の回りの雑貨を作ってきたんです。

――そんな背景があったんですね。墨田区には現在、どれくらいの工場があるのでしょうか?

浜野さん:高度経済成長期には9700〜9800社ほどの工場が集積しているといわれていましたが、墨田区によると2016年の製造業の事業所数は2154社まで減っています。また、家族経営の小規模零細工場も少なくありません。

墨田区には、大田区のような工場専用地域がなく、自宅と一緒になった小さな工場が街中に点在しています。そのため、地域の人たちと仲良くしていかないといけないと、工場をやっていけないんですよ。

僕が小さい頃は、どこもかしこも工場だったので、トラックが停まっていても「悪い悪い、ちょっと待ってくれ」と、お互い様。でも工場が減って建売住宅や駐車場ができ、外から人が移り住んでくるようになり、時代とともに地域との関係性が変化してきました。

 

素晴らしい職人の技術を広く伝えたい

――「スミファ」は、工場周辺の地域に住んでいる方との関係性を良くしよう、という目的で始まったんでしょうか?

浜野さん:僕は墨田で生まれ育ち、今は墨田で仕事をしています。小学生の頃、ランドセルを背負って帰って来たとき、工場の窓から中を覗いていたら、おばあちゃんが「坊主、入りな」って、工場の中を見せてくれました。夏にはカルピスを出してくれたり、「投げるんじゃないよ」と言いながら鉄の塊をくれたり。そうやって日常の中で、墨田区の工場を見学することができたんです。

僕が今、ものづくりの仕事をしている理由の一つは、小さい頃そういう環境があったから。「こういうふうになっている」「こうやってできている」と、地域の人たちがみんなで教えてくれました。
でも様々な事情で墨田区から工場が減り、シャッターを開けっ放しで仕事することもできなくなりました。そうすると、ここで生まれ育った子どもたちが、地域にどういう技術があり、何が作られているのか、どんどん分からなくなってしまっています。

スミファをはじめた理由の一つは、子どもたちに自分が生まれ育った場所がどういうところなのかを知ってもらいたいな、という思いがあります。

もう一つは、みんな小さい会社ということもあり、せっかく良い技術や素晴らしい情熱をお持ちなのに、PRや宣伝をほとんどしていないこと。墨田区内外の方に工場を見ていただき、現場でこだわりを持った人の技術や思いを知ってもらうことで、自社製品が違う分野で日の目を見れる場を作ることができたら、墨田区内の工場が新たな活躍の道を見出すことができるんじゃないかな、と思っています。

ものづくりは分業化が進んでおり、一社で全てできるわけではなく、ボルトはボルト専門の会社に、メッキはメッキ屋さんに……と、色んな会社の技術が組み合わさって一つの製品になっていきます。そのため、自分の会社だけが良ければいいのではなく、周りの工場も一緒に生き残っていかないと、全体の力が弱まってしまいます。

たとえば自動車業界の部品の製造技術でも、半導体の製造装置にも十分に使えそうなものはあります。でも半導体分野に売り込むわけでも、展示会に出展するわけでもなく、子どもも継がない。俺もそろそろ歳だし閉じるかと、どんどん工場が少なくなっていく。
そんな状況を目の当たりにしてきたので、スミファを通して良い技術を、業界を超えた色んな人たちに見てもらいたいなと思ったんです。

 

スミファという場で、それぞれの想いを実現

――スミファをはじめて、思いもよらない業界からの発注は生まれましたか?

浜野さん:はい。発注だけでなく、実際にスミファに参加している会社同士でつながって、新たな製品を作るところもありました。みなさんがせっかく時間を割いて参加してくださっているので、何かお役に経ちたいなと思っています。一番は販路拡大によって、売上向上や新規顧客の開拓につながればいいな、と。また、見に来た学生がぜひここで働きたいと思ってくれるなど、人材採用につながれば良いなと思います。

夫婦でやっている工場だと、普段は中に誰も入ってこないし見学者もいないので、工場の中が荒れ放題で、どこになにがあるのか分からない、ということもたくさんあるんです。
スミファのオープンファクトリーを通して見学者が来るとなると、片付けておかないと恥ずかしいし危険なので、整理整頓も進みます。また、見学者をぼーっと待たせておくわけにはいかないからクイズを出そうとか、夫婦の会話が増えたり。そういった効果もあります。

――ご夫婦=経営者同士のコミュニケーション増加といった、副次的な効果もあるんですね。

浜野さん:会社によって規模や業種が様々なので、皆さんがそれぞれやりたいこと、見てほしいことがあります。スミファという場を提供するので、それぞれの思いを実現する場としてご活用いただきたいです。
何人集客した、いくら売上が上がったといった数値評価も増えるに越したことはないですが、心や生活が豊かになったり、新たな発見があったりといった人間の本質的なところを満たすために、来場者も参加者も、スミファという場を使っていただけたらいいですね。
数字や売上以外で、新たな価値ある取り組みを伝播できたら、これからの工場見学ツアーの一つのモデルになるのでは、と思っています。

工場があると、騒音だけでなく材料を運ぶトラックも頻繁にやってきます。住民の理解がないとトラブルの原因ともなり、墨田区外へ出ていかざるを得なくなってしまいます。地域の理解度が深まり、地域に支えられる会社になったら、それは素敵なこと。売上や来場者数では評価できない価値だと思います。

 

動画で職人の手さばきをじっくり体感
オンラインだからこそできること

――2021年は第10回となります。今年の見どころを伺えますか?

浜野さん:10年目の今年は「つなぐ つながる」をテーマにしています。
今年もオンライン開催ですが、たとえば手術用のハサミを作っている石宏製作所は、3人入れば密になってしまうような作業場。職人さんの手元を背中越しに見ていても微妙な手の動きや手さばきをしっかりと見ることは、リアルでは難しいですが、オンラインだとじっくりと見られます。

ぜひオンラインだからこそできるコンテンツをお楽しみいただきたいですね。

――多彩なコンテンツが毎年魅力的です。運営メンバーはどのような方たちなのでしょうか?

浜野さん:実行委員会は主にクリエイターやデザイナー、ライターの他、学生さんにも手伝ってもらっています。事務局として墨田区にも入っていただいています。

――色んな方のご参加によって盛り上がっているんですね。

浜野さん:最初は手探りでしたが、毎年出てきた課題を少しずつ進めていっている感じです。たとえば、せっかくなら墨田のお店で美味しいご飯を食べてもらいたいと、商店街連合会と組んでイベントを行ったり、もともと別の日程で錦糸公園で開催していた「すみだパン祭り」を同じ日に開催して、工場見学のあとパンを食べてもらえるようにしたり。

昨年もオンライン開催だったんですが、高齢の職人さんだと動画撮影や編集ができない場合があります。そういうときに情報経営イノベーション専門職大学(iU)の学生にお願いして、撮影や編集を手伝ってもらっています。

「スマホがあれば、一回撮れるようになればあとは自分でできますよ」と勉強会を企画した際、「ガラケーしか持っていない」というおばあちゃんが、第一回目の説明会の直前にスマホに変えたんです。ガラケーを使っていたおばあちゃんがスマホにするなんて、一大事。まさしく中小企業のDXです。

そうやって、自分たちができることで、ちょっとでもいいから前に向かって取り組んでみるというマインドが、すごく大切。スミファによって、そういう場づくりや環境提供ができたらいいですね。

(写真提供=スミファ実行委員会)

 


 

■第10回 スミファ すみだファクトリーめぐり

日時:2021年11月20日(土)・21日(日)10:00−17:00
開催場所:墨田区全域
URL:https://sumifa.jp/


 

【イベント告知】

浜野社長にもご登壇いただく「地域スクランブル大作戦〜ヒカリエに集え!地域の視点〜」が、11月27日(土)に開催されます。

合同会社別視点では、このたび新たな活動として、ユニークな視点で地域活性に取り組んでいる企業や団体、個人の皆様が情報交換や相互交流を行う場づくりをはじめました。
第一弾として、11月27日(土)に「地域スクランブル大作戦〜ヒカリエに集え!地域の視点〜」を開催いたします。
ユニークな視点で地域を盛り上げる活動に従事されるスペシャリストの方々をお招きし、地方活性化の秘訣をゲストに詳しく解説していただくほか、参加者の皆さまがそれぞれお持ちの課題について、登壇者を交えながらディスカッションする内容も予定しております。

現在オンライン参加を受付中!
お申し込みはこちらから:https://forms.office.com/r/99gJt2a7k5

ご参加お待ちしております。

 

■イベントについて
イベント名:地域スクランブル大作戦〜ヒカリエに集え!地域の視点〜
日時   :2021年11月27日(土)14:00-17:00
会場   :YouTubeライブにて配信(PC、スマホ、タブレットより視聴いただけます)
参加費用 :無料
詳細   :https://www.hikarie8.com/court/2021/10/post-297.shtml