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2021.12.27

【インタビュー】「歓楽街」から「バラエティ番組の聖地」へ。たった1人の職員がブランドイメージを向上させた秘訣 熱海市役所・山田久貴さん

かつては飲めや歌えやの歓楽街として栄えた熱海市が、近年ではバラエティの町として一躍注目を集めていることをご存じでしょうか。
今回はその立役者である熱海市役所の山田 久貴(やまだ・ひさたか)さんに、取り組みの内容やその効果についてお伺いしました。

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山田 久貴(やまだ ひさたか)さん・プロフィール

熱海市役所 観光経済課 ロケ支援担当。35歳で熱海市役所に就職後、熱海市への誘客イベント、キャンペーン活動の担当などに従事。その後、バラエティ番組のロケをサポートする「ADさん、いらっしゃい!」を企画、立ち上げ。さまざまなロケの支援を行いながら、熱海市のブランドイメージ向上に貢献。

△「ADさん、いらっしゃい!」(熱海市役所ホームページ) https://www.city.atami.lg.jp/locashien/1001916.html

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「たった1人」で熱海市のロケ番組をコーディネート

――熱海市役所のHPを拝見すると「ロケ支援担当」「ADさん、いらっしゃい!」という文字が目に飛び込んできました。普段はどのような業務をされているのでしょうか。

山田さん:2012年から、熱海を舞台としたテレビのバラエティ番組や情報番組などの、ロケをサポートする事業を専属で担当しています。熱海に土地勘が無い制作スタッフさんでもロケを滞りなく行えるよう、ぴったりと寄り添いあらゆる面のサポートをする。

簡単に言えば、コーディネーターですね。熱海市のいち職員として、市への誘客に効果的なロケについては無償でコーディネートをしています。

――日本各地の自治体や団体が同様の事業をされていますが、熱海市の活躍はとりわけ目覚ましいですよね。

山田さん:競合と差別化するために「真似させない、真似できない」というコンセプトを意識しています。映画やドラマに注力しても、他との差別化にはならない。

では、熱海は何をやろうか。考えた結果、熱海はバラエティ番組に特化しよう、と決めました。突飛でふざけたような内容でも、地域の皆様のご迷惑にならないバラエティならOK。もちろん、ネット番組でもサポートします。

そうして活動していくと、2年目ぐらいから口コミで噂が広まっていきました。「熱海ならなんとか出来る。困ったら熱海に相談しろ」というキーワードが、制作スタッフさんの間で徐々に定着したらしいです(笑)この頃になると、大手広告代理店で熱海の取り組みを記事で紹介いただけるようにもなりました。

――映像業界は動きが目まぐるしいかと思いますが、業務で重視されていることはありますか?

山田さん:まずは「お客さま目線」、つまり制作さんの動きに合わせることです。バラエティ番組は企画からロケ、放送までのスパンが非常に短期間で、お話が来た翌日にロケハンをしたい、というスケジュール感も珍しくありません。

その中で、制作さんが考える企画をいかに可能にするかが私の役目です。土日祝日、早朝深夜でも自分が可能な限り動いて、スピーディに回答することを心がけています。

それにコスト面なども踏まえると、動くのは1人が良かったんですよね。他の自治体ではチームで動くことも多いかと思いますが、1人で動けば人件費も抑えられる。それに制作さんから対応の依頼を受けたときも、自分のスケジュール管理だけで済むので即答できます。それもあって、熱海市としては1人でコーディネートすることに決めました。

――1人でやるのは大変そうですね。

山田さん:そうでもないですよ。もともと民間企業でずっと営業をしていたので、お客さまに合わせた動きは身に染み付いていました。

子育てもひと段落して、家族の理解が得られたこともあり比較的スムーズに取り組めました。また、目的が「熱海市をイメージアップする」と明確だったので、目的達成のためなら多少きつくても頑張ることが出来ましたね。

あとは1人で対応する効果として「意外性」が挙げられます。市の職員がたった1人で365日対応でロケを徹底サポートしているのがニュースになるだろうと。事業のPRになりますし、市民の皆さまに事業内容を周知いただくことで、ご協力が得やすくなる効果もありました。

 

まるで「おもちゃ箱」のような、熱海の特性を活かす

――山田さんは、元々は民間企業にお勤めだったんですよね。

山田さん:私は35歳で民間企業から熱海市役所に採用され、観光課に配属されました。誘客イベントに携わっていて不思議だったのは、様々なキャンペーンをやっても、熱海市に訪れるお客様があまり増えないことでした。

なぜだろうと考えて行き着いたのは、イベントが悪いとか事業が悪いというわけではなく、熱海が元々持っていた課題でした。それは昭和40年代から定着した「熱海は飲めや歌えやの歓楽街」というイメージです。

――少し前は「熱海に社内旅行!」のようなフレーズも多かった気がします。

山田さん:もちろん悪いことばかりではないですが、温泉地やリゾート地という本来なりたい姿からは遠くなっていました。そうなると、ご家族連れや癒しを求める方々からすると、あまり行きたいとは思ってもらえませんよね。

ですので、やはり自治体や観光地にとって、町のブランドイメージは大切だなと強く思いました。温泉や観光資源、ホスピタリティがあっても、ブランドイメージが良くないとなかなか来てもらえない。

――そこから、イメージを変えるために動き始めたと。

山田さん:既に「宴会の町」というイメージが定着していたので、箱根や鎌倉のような清楚な方向へ行くのは難しいと感じていました。私が注目したのは、熱海の「コンパクトさ」です。

少し歩くとリゾート地があれば、昭和っぽい飲み屋街もあったり。かと思えば沖合いには、定期船で30分でいける初島があったり。小さい町の中に、おもちゃ箱みたいに色んなスポットが詰まっています。それが箱根などにはない、熱海独自の特性だったんです。

――PRすべき方向性が見えてきたんですね。

そしてそれを繋げるのが、まさにバラエティー番組でした。バラエティー番組が面白いと感じるポイントと、熱海の面白さがリンクするんじゃないかと。実際、番組内で町を遊んでいただくとSNSでも「熱海ってこんなことが出来るんだ!」と好意的な反応を数多くいただけるようになりました。

「他の町では出来ないことが、熱海なら出来る」「熱海は面白い町」というブランドイメージになってきたんです。最近ではテレビだけでなく、YouTuberの方々もよく企画で撮影に来てもらえるようになりましたね。

 

まだ見ぬ「熱海の魅力」を知ってほしい

――独自の「視点」でPRに取り組まれた効果はいかがでしたか?

山田さん:てきめんに効果がありました。「全国市区町村魅力度ランキング」では、2013年では23位だったのが昨年には11位まで上がりました。トップ10は京都や鎌倉など、誰もが知る観光地ばかりですね。

また、楽天トラベルが発表している「人気温泉地ランキング」では10年近くずっとトップ。じゃらんの「20代が選ぶ人気温泉地」でもトップ3に入りました。15年ほど前はご高齢の方向けの町だった熱海でしたが、若い方からの支持も増えていると感じています。

若いお客様が増えると新しいマーケットが生まれますし、そのマーケットやサービスに、さらにお客様が来る。そんな良いサイクルが出来つつあります。

コロナ禍で熱海の事業者さんも苦しい状況ですが、閉店しているところって意外と少ないんですよね。それどころか新しいスイーツ店が4〜5店舗出来たり、むしろ増えているぐらいだと思います。

――熱海全体のイメージが変わってきたんですね。そんな変化を生むためには、労力も必要だったのではないでしょうか。

山田さん:そうですね、強いて挙げれば番組のADさんやスタッフさんとのやり取りは、大変といえば大変です。これまで関係した番組は800本を超えまして、スタッフさんも1,000名以上を担当してきました。人もどんどん変わっていくので、学校の先生でいえば生徒が毎月変わるようなイメージです(笑)

ただ、実際はそこまで大変ではなかったですよ。「24時間365日対応」というキャッチコピーでやっていたのでいつ休んでるの? とよく聞かれましたが、自分でスケジュール管理をして休むときは休んでいました。

それが出来たのも、熱海の皆さまの力が大きいと考えています。いくらブランドイメージを作っても、中身が伴っていないといけませんから。その点、熱海は観光サービス業に古くから従事していましたし、一度歓楽街になっているので、バラエティにもご理解がある。

ロケでタレントさんが盛り上がっていても、お店の方々からすればギャラリーが集まって、行列になってくれる。観光に来られた方にとっても、ロケ現場に遭遇できたことが思い出になる。そういった良い循環に、特に熱海の商店街の皆さまはご理解があったと思います。

――特に思い出深かったお仕事や、出来事があれば聞いてみたいです。

山田さん:一番大掛かりだったのは、某キー局の特番バラエティを担当した時ですね。人気の芸人さんが40名ほど集まって、ビーチや廃校など6つの現場で体を張った企画をするという内容で。スタッフさんだけでも300名近くいらっしゃいました。

現在は部下を付けてもらっていますが当時は私1人で担当していたので、1人で6つの現場を同時にセッティングしながら、しかも中継もあったんですよ。1つの現場にいても、他の現場のADさんから引っ切りなしに連絡が来て(笑)あれはなかなか大変だったなあと思います。

一方で、そういう仕事をいくつもやっていると、ADさんとも関係性が出来てきます。以前に担当したADさんからある日連絡が来まして、「結婚したから家族で熱海へ旅行したい。ゴールデンウィークでなかなか宿が取れないんだけど、山田さん良いところ知ってる?」って。

他の方からも「熱海でオススメの飲み屋さんが知りたい」とか「久しぶりに会いたい」とか(笑)そんな風に頼りにしていただけるのは、やっぱり嬉しいですね。

――親身に対応されたからこそ、生まれた関係性ですね! 最後に今後の展望や、改めて熱海のPRポイントを教えていただけますでしょうか。

山田さん:今の熱海はブランドイメージも出来てきて、そこから新しい民間サービスがどんどん生まれる、という良いサイクルになってきています。今後はそれを継続しながら、滞在時間での付加価値や満足度をさらに高めていければと考えています。

自然とお客様に来ていただいて、満足してもらい、SNSなどでさらに拡散していただける。目指すべきはディズニーリゾートのような形ですね!

あと、まだまだ多くの方が知らない熱海もあると思うんですよ。ビーチや温泉といった定番スポット以外にも、たとえば町の中には360°見渡せる天空の広場があったり、旅情をくすぐるような漁港があったり。

漁港で鳴いているウミネコの近くで、ゆっくりと時間を過ごしていただいたり。熱海は奥が深いので、色々な楽しみ方を見つけてほしいですね。

ご興味のある方は、熱海市のホームページにメールアドレスも掲載していますので、個人的にお問合せいただいて構いません! 「あのお店ってどうですか?」「どんなルートを巡れば良いですか?」など、なんでも結構ですので。あなたの知らない熱海を、ぜひ探求してください。

(写真提供=熱海市役所・山田久貴)